有名な観光地や、名勝旧蹟などは各種の施設や、その中に包括されるいろいろなイベントも含めて、トータルイメージとしてのモニュメント(記念碑)性をもっている。しかし、それを一つのシンボルイメージとして集約する中心テーマのような風物なり、建築物なりが、あるものである。ホテルやサービス施設に於ても、こうしたトータルイメージのシンボル化は、重要なポイントとなるもので、それを何によって表現するかということであり、それは、実際の具体的ケースによって、それぞれ違うものになる筈である。
その施設のロケーションとなる自然、建築物の特徴、等は、トータルイメージの構成要素となり得る。しかし、それがトータルイメージのシンボルとなり得るためには、モニュメント(記念碑)性が必要なのである。一つの例として、箱根富士屋ホテルは現存する古い建築のホテルである。その建築物としての美術性は優れたもので、充分にモニュメント(記念碑)性を持ち得る。しかし、それにも増して、このホテルを印象強く、いつまでも忘れさせないモニュメント(記念碑)性として、ロビーの柱の彫刻がある。それは御存知のかたも多いと思うが、ロビーにある円柱の根元の部分に、大きな目をむいて、ロヒゲを生やした男性のマスクが刻まれている。ある程度、抽象化されたそのマスクは、なかなか威厳があり、オーナメントとして建築物によく溶け込んでいる。聞くところによると、これは、このホテルの創始者でオーナーであった人物のマスクと言うことである。ところが、それが柱の根元、客の視線よりずっと低い位置で、呪みつけているといった姿はユーモラスであり、お客様を歓迎しているのであるとか。ホテルのサービスをいつも見張っているのであるとか、いろいろと勝手な想像が囁かれるのである。もちろん、確めたわけでもないが、こうした想像を、見る人をして起さしめること自体、そのエピソード性と言い、モニュメント(記念碑)性と言い、大成功である。結果として箱根富士屋ホテルの名前を聞く時、真っ先にこの柱元のオジサンの彫像を思い浮べてしまうのである。